null

池内紀さんはドイツ文学者であると同時にエッセイストでもあられる。
私はこのひとの一人旅や山行、文学全般についての叙述がとても好きでかなりの著作に接した。
その中でこの「森の紳士録」は一番好きな作品である。

ウサギ、サワガニ、アキアカネ、モズ等々、人間の身近にある森の中でつつましく暮らす25種余りの生き物達について、それぞれ稿を改めつつ記したものだが誠にしみじみとした味わいがあり読みながら気持も落ち着く。

神様から世の生きとし生けるものに平等に与えられたこの地球という環境の中で人間様ばかりが身勝手な行動を繰り返し生態系に色々な負荷をかけている訳であるが、そんな人間様のすぐ近くで愚痴ひとつ言うでもなく日々懸命に生きている姿が健気である。
この本を読むと身の回りのありふれた自然の中にも彼等の息遣いを感じずにいられない。

笑ってしまったのが「モグラ」についての稿であるが、箱根周辺を境として東日本と西日本で分布する種が分かれてくるらしく、三島、須走、駿河小山あたりの身近な土地での棲息状況についても触れられていた。読むだけで楽しくなってしまう。

とことん雨に降られ大きな被害も出た今年の梅雨だが、明けたら少し遠出してより彼等に身近な高原でさわやかな夏の風を感じたいものだ。